明治の「行定之事」と「心得書」...外村宇兵衛家

初代外村宇兵衛は、安永6年(1777年)に外村与左衛門の末子として生まれ、享和元年(1801年)に与左衛門家から分家。

明治22年に、本家外村与左衛門家において、資産減少や家業に危機を迎えたため、「各分家一同并出勤ノ者集議シ、従前家法制則ス」(外村家乗資料 別記第2)として、安政3年(1856年)に制定した「心得書」「作法記」の主旨を新たに見直しをした。

外村宇兵衛家など分家を中心となり、まず「行定之事」を取りまとめた。「行定之事」は、10カ条の家督相続に関しての細かな取り決めをした上で、次のように定めている。

「行定之事」10カ条(相続人や家督相続に関する取り決め)

「右ノ条々堅ク相心得、決シテ無益の費無之様専ラ倹約可候、若時ノ主人心得違致シ家法不取締ノ義有之時ハ、分家出勤ノ者ヨリ急度相諭シ、不用ハ早ク隠居為致ベシ、

家ノ主人タル者ハ其家法則ニ応ジ自信教人信ノ意ヲ深ク思慮シ、家業ニ於テハ兼々控書ノ通リ自利々他ノ道理ヲ分別シ、以テ永遠ノ良策ヲ計ルベシ、

将商内向不引合ニテ勘定相立兼、不都合ノ節ハ本家都テ身分手当急度減少致スベシ、尤其節ニ至リ万一過分ノ人数ハ減ジ候トモ、給金等ハ定メノ通リ決シテ減ジ間敷候事

10カ条の家督相続のこときちんと心得て、決してムダ使いしないよう倹約に努めること。

若い時期の主人が心得違いして家法を厳守しないことがあれば、分家が家法を守るように諭し、それでも守らないときには、隠居させるようにすること。

家の主人たる者は家法の真意を深く思慮して、家業においては、かねての控書の通り、「自利利他」の道理をわきまえて永続的な良策を実行すること。

商売がうまく行かないときには、たとえ本家であっても身分手当を少なくすること。

もっとも、その時でも人員削減したとしても給金については定めに従って支払い、決して減らしてはいけない。

「心得書」明治34年制定一 平生ハ我好ム処ヲ慎ミ、専ラ我意ニ嫌ヘル所ヲ可務事

一 倹約ハ家ノ守ル基ナレバ、古風ヲ忌(忘)レズ万事ニ気ヲ附ケ、聊ノ品タリトモ廃リ物ナキ様相心得可申候、身ノ廻リ衣類等ノ 義 ハ常ニ申渡候通リ屹度相守リ可申事

一 上下ノ差別ヲ相弁ヘ、兼々申渡置候通リ出勤者ヲ始、子供ニ至ル迄、上ヲ敬ヒ下ヲ憐ミ、行儀正敷慇懃ニ可致事

一 人ヲ誹リ告ケ言堅ク申間敷、常ニ蔭日向無之様相嗜ミ可申、正シカラザル心得有之バ人ノ道ニ不叶、末難儀ノ基ニナレバ急度相慎可申事

一 一統末々ニ至ル迄、分限ヲ相弁ヘ家ノ道ヲ堅固ニ相勤メ、我身々々ノ行末善ヲ好ムト悪ヲ好ムトノ其報アルコト深ク知ルベシ、亦一ツ家ニ住合シ候事ハ深キ因縁有ル事ハ常々教ノ通リ、此儀能々相弁ヘ、家内和熟ヲ本トシテ何事モ堪忍致合可申ハ勿論、我ニ器量アリトモ必ズホコリ申間敷候、是ヲ慎マザレバ不和合ノ基、禍ハ下ヨリ記ルト申事、常ニ相心得急度相慎可申事

一 商内不入精ニシテ此上ハ致方無シ抔候者ハ、役柄引下ゲ可申事

一 取引向ニ於テ或ハ親類縁者ノ儀ヲ以テ、依怙贔屓ノ取斗決シテ致間敷候、惣テ取引向平等心ヲ以テ、聊差別無之急度相心得可申事

一 惣テ其掛リ々々ニ片寄候事アルベカラズ、諸向共我身ノ手元同様ニ相心掛ケ、決シテ隔意ナク一味ニ相心得、店中子供ニ至ル迄諸事油断ナク相心掛候申諭スベク、我身ノ為忠勤怠ルベカラザル事

一 重役ノ者ハ万事ニ心ヲ配リ、差障リ無之様身心堅固ニ持ツベシ、在勤中自然心得違ノ者出来候ヘバ、重役ノ不行届キニモ可相成道理、必ズ無油断人ノ性質ヲ見立、忠孝明徳ノ道理ヲ相心得、皆々順当立身致候様能々申諭スベシ、若シ家風ニ相背キ心得違ノ者有之候ヘバ、決而用捨間敷候事、惣テ重役ノ者ハ尚々店一同ノ見習ニモ相成候ヘバ、着用手廻リ万事目立不申様相慎ミ、高風堅ク相守リ申スベシ

一 世評風説何ニ寄ラズ人ヲ誹リ人ノ非儀タル中言ヲ申参リ候共、必ス一応ノ儀信ズベカラズ、人口恐ルベシ、何事モ家事家業ノ外ハ若シ聞クトモ、無益ノ事ハ聞流シ可致事

一 家相談ハ守ラザルニ在リ、必ズ其家ノ作法ノ仕来リノ儀ヲ心得違無之様大切ニ相守リ、精勤ヲ致シ、君ヲ思フハ我身ヲ思フナリ、能々思慮シ只家法ヲ守リ、専ラ勤メテ無事長久ノ計怠ルベカラズ

一 家ノ乱ハ奢ヨリ起ルト申事ニ候ヘバ、重タル者ハ尚更深ク相心得、増長致サヾル様銘々相慎ミ申スベシ

一 得意先ハ勿論、取引先出入方ニ至ル迄、必ズ慢心ノ言バ遣ヒ急度相慎ミ申スベシ、惣テ我身ヲ誇リ高ブル事ハ愚ニシテ不徳ノ基ナレハ、必ズ我身ヲ忘レザル様常ニ相心掛ケ可申事

右明治三十四年一月廿一日 □有慶老人御携被下しニより写取置候也
元 明 誌

一 普段は、自分の好むところを慎み、もっぱら自分の嫌なことを率先して勤めること

一 倹約は、家を守る基であるから昔からのやり方を忘れず、すべての事に気を付け、どのような品であっても廃棄することのないよう心得ること。衣類等の身の回り品については、いつも言っているとおり厳守すること。

一 身分の上下の差別を十分にわきまえ、いつも言っているとおり、出勤者や子供に至るまで、上を敬い(うやまい)下を憐れみ(あわれみ)行儀や礼儀を正しくすること。

一 人を非難したり、告げ口を堅く禁ずる。いつも陰日向(かげひなた)ないように気を付けること。正しくない心得があれば、それは人の道に叶うものではない。行く末、苦しむ基であるから、必ず慎むよう申しつける。

一 一統、この先ずっと、身分・身の程をわきまえ、家風を堅く守ることに勤め、自分の行く末が良いことも悪いこともあることを深く知ること。また、みんなひとつ家に住んでいることは、何か深い因縁のあることを常々より教えているが、このことをよくよくわきまえて家内仲良く親しむことを基本として何事も我慢することはもちろん、自分に器量があったとしても、それを自慢してはならない。これを慎まないのは不和合の基である。わざわい事は下より起こるを常に心得て必ず慎むようにすること。

一 商いに精を出さず、改善もみられない者は役柄を引き下げることもある。

一 取引において、例えば親類縁者の義理だかからといって特別扱いをしてはならない。総じて取引は平等心をもって、いささかの差別待遇してはならないことを必ず心得ておくこと。

一 総じて、偏った仕事の取り組みをしてはならない。いろんな事があっても自分のことと同じように心がけ、心をへだてることなく公正であることを心得ること。この事を店中の子供に至るまで全員が油断することなく心がけることを教え、自分自身のためにも忠勤を怠ってはならない。

一 重役の者は万事に心を配り、差し障りのないよう、しっかりとした心身を持つこと。仕事中、自然に心得違いの者が出てきた場合、それは重役の不行き届きとなるのが道理である。人の性質を見立てて、忠義と孝行、正しく公明な徳の道理を心得て、皆が  順当に立身できるよう油断しないできちんと教えること。もし家風に背く心得違いの者がいれば、決して放置してはいけない。総じて重役の者は、店一同の手本となるので衣服や身の回りの着用は目立たないようにし、すぐれた人格をを堅く堅持すること。

一 世評や風評に寄らず、人を非難し、非儀であるといった発言も受けることもある。これらの言葉を信じてはならない。人の言うこと、恐るべし。何事も家事家業の外の話を聞いたとしても、無益の事は聞き流すようにすること。

一 家の相談事は、守らないことにある。必ず家の作法やしきたりを心得違いのないよう大切に守って精勤し、主人を思うことは我が身を思うことである。そのことを十分に思慮し家法を守り、末永く無事に勤務する努力を怠ってはいけない。

一 家のもめ事は、奢りより起こる事を申し伝えているが、重責を担う者は更にそのことを深く心得る事。傲慢にさせないよう、それぞれ慎むこと。

一 得意先はもちろんのこと、取引先の出入業者に対して、慢心した言葉遣いは必ず慎むこと。総じて自分自身を自慢する事は、愚かで不徳の基であるから、自分の立場を忘れないよう、常にそのことを心掛けること。

〔職階制度〕
まず、「丁稚(でっち)」は、10歳前後で採用・雑用に従事、次に「手代(でだい)」主に販売部門担当、さらに「番頭(ばんとう)」主に仕入れ部門担当、そして「支配人」商内活動責任者、「後見支配人」出店全体の監督者、「主人」家の最高位。

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